海外のラグジュアリープロフェッショナルと考える
⽇光のグローバルな未来価値デザイン「インベストメント⽇光」

2022年12月、ザ・リッツ・カールトン日光において、世界的なミーティング・プランナー組織であるMPI(Meeting Professional International)の日本支部であるMPI Japan Chapterと連携し、世界レベルのラグジュアリーブランディングを日光から展開するアイディアを共創する「インベストメント日光」を開催しました。
当日は、世界的なインベスターとともに、新型スペーシア Xの開業を契機に日光を舞台とした日本のラグジュアリーツーリズムを牽引するビジョンについて話し合い、日光が世界的なデスティネーションになるための条件や投資戦略、富裕層の誘致における課題等について投資家の目線からディスカッションが行われました。
ダイアログを通じて創出したアイディアや認識した課題については、今後、栃木県、日光市をはじめ、「#アップサイクルTOCHIGI」プロジェクトに共催・参画する連携パートナーとともにその実現や課題解決に向けて取り組んでまいります。

【登壇者】

カール・ハドソン⽒:マリオット・インターナショナル ⽇本・グアム地区副社⻑

アレクサンダー・ウエストウッド・マクブライド⽒:ザ・リッツ・カールトン⽇光 総⽀配⼈

コリー・ハマバタ⽒:ロックプール・キャピタル マネージングディレクター

モデレーター/ジェームズ・ソーバック⽒:17Life Works Pte Ltd 代表取締役、MPI Japan Chapter(元ゴールドマン・サックス、元ハイアットホテルズジャパン)

⼭本牧⼦⽒:MPI Japan Chapter 名誉会⻑

渡邉賢⼀⽒:アップサイクルTOCHIGI 総合プロデューサー/内閣府CJPF ディレクター

新しいスポットライトを照らし、新しい興味を持ってもらう。それが「NEW DAY,NEW LIGHT.」

【開催地挨拶】
⽇光市⻑ 粉川昭⼀⽒

インベストメント⽇光、このようなグローバルな会議が⽇光市で開催されますことに⼼から感謝申し上げます。⽇光市では新たなブランディング「NEWDAY,NEW LIGHT.」を⽴ち上げ、新しい⽇光の⼀⾯を紹介するプロモーションに⼒を⼊れて参りました。⽇光には歴史があります。けれど、それだけではありません。映画の世界のような壮⼤な⾃然、アイデアあふれる遊び、新しい⽂化や⾷。これまで⼤切にしてきたものも、これから⽣まれるものも、新しいスポットライトを照らすことで新しい興味を持ってもらう。発信し続けることで、新しい絆を深めていく。⽇光と⼈々が新しい関係を作る。それが「NEW DAY,NEW LIGHT.」の役⽬です。また、⽇光市で実施している2つのプロジェクトがあります。1つ⽬が「Route.N」ルート.N です。これは⽇光市の魅⼒的な資源をストーリーやテーマごとに束ねて今までにない視点で⽇光を楽しむ観光ルートを提案する企画です。「絶景の中で朝⾷を⾷べたい」など、旅する⼈たちの⼼をくすぐるような魅⼒的なルート を提案していきます。
2つ⽬が「CHOCOTTO NIKKO」チョコットニッコウです。⽇光が有する豊かな産業、観光地、⾃然、名産品を今よりもっと⾝近なものにするために⼦どもから⼤⼈まで親しみのあるチョコレートで⽇光に新しい光を当てていきます。さらに、⽇光市は明治初期から⾃然と歴史を兼ね備える避暑地として評価されてきました。明治時代に開業した本格的な⻄洋式ホテル「⾦⾕ホテル」は現存する⽇本最古のリゾートホテルとして多くの外国⼈観光客に愛されてきました。近年は「ザ・リッツ・カールトン⽇光」をはじめとする富裕層向けホテルの⽴地 が進んでいます。
優れた⾃然環境に恵まれた⽇光市では2021 年12 ⽉に「ゼロカーボンシティ」宣⾔を⾏いました。今後、2050 年までに温室効果ガスの実質排出量ゼロを⽬指し、その実現に向けて取り組みを進めてまいります。これからの⽇光のために、⽇光市では市⺠や観光客をはじめ、⽇光に関わる全ての⽅々と連動しながら共に新たな⼀歩を創っていきたいと考えています。

東武特急スペーシア X、G7。⽇光のブランドイメージの⾼まりに期待。

【基調講演】
東武鉄道株式会社 執⾏役員
UNWTO 駐⽇事務所代表 本保芳明⽒

⼤変貴重なフォーラムにお招きいただきまして⼼より感謝申し上げます。まず最初に観光政策の基本はサスティナブルツーリズム「持続可能な観光」の推進であり「責任ある観光」であります。「社会経済」「⽂化」「環境」この3つのバランスが取れた観光への取り組みによって持続可能な観光が実現されます。量を追うのではなく「質」としての観光経済消費をいかに上げていくかということに主眼を置くことが⼤事な出発点です。
「観光消費額=宿泊⽇数×1⽇あたりの観光消費額」となりますが、UNWTO 全体においても2010 年から2018 年まで主な国の⼀⼈当たりの外国⼈観光消費額の推移を⽰したデータによると、ほとんどの国で伸ばせておらず、⽇本も2013年から2019 年の結果では宿泊⽇数マイナス0.3 泊と減っています。その中で注⽬されているのが富裕層の誘致です。富裕層を消費のトップリーダーとしてトリクルダウンでその下の層の誘致を図っていくということです。
⽇光と箱根を⽐較した宿泊者数のデータでは、2011 年から2019 年のインバウンド数を⽐較すると箱根はどんどん伸びていくのに対して⽇光は⼤変伸び悩んでいます。その理由の⼀つが富裕層の誘致ができていなかったことにあると考えられます。富裕層にとって⽇光は⻑い間、滞在先として認知されていなかった。それが変化したのが、こちらのザ・リッツ・カールトン⽇光の誕⽣だったと思います。
富裕層誘致には、⼊国から出国まで、宿泊、飲⾷、アクティビティ、買い物、交通など旅⾏のあらゆる⾏程において「⼀気通貫」かつ⾼いクオリティと柔軟性のあるサービスが求められます。そのための具体的取組として、魅⼒あるコンテンツなどの「ウリ」、上質な宿泊施設「ヤド」、富裕層ニーズを満たすホスピタリティとしての「ヒト」、海外の富裕層に繋がる「コネ」を揃える必要があります。
⽇光に当てはめてみると「ウリ」は⾃然も⽂化も箱根に劣るところは少しもなく、むしろ⽂化的資源は遥か上を⾏くのではと⾒ています。では「ヤド」はどうか、いわゆる⾼級ホテルの数では⽇光の6施設に対し、箱根は25施設。数の⾯でも全く⾜りていません。こうしたハイエンド層の部分について追い⾵になるものがあります。2023年の7⽉、東武鉄道の新型特急「東武特急スペーシア X」という最新鋭の豪華特急列⾞が運⾏となり、旅⾏の⾜の⾯で⼤きくレベルが変わっていくと考えています。さらに、2023 年のG7 サミット閣僚会合がザ・リッツ・カールトン⽇光を会場に開催が決定されています。このレベルのホテルがなければ実現しないことであり、こうした国際会議が開催できるという⽇光のブランドイメージが⾼くなると期待しています。
⽇光はインバウンドについて、ホテルや飲⾷施設についても⼤きな投資の機会があり、これまでの遅れを取り戻すチャンスであり、今回のパネルディスカッションへ期待を申し上げたいと思います。

「インベストメント⽇光」

今回のディスカッションのモデレーターであり、ハイアットホテルズジャパンやゴールドマン・サックスでも活躍されたジェームズ・ソーバック⽒が最初に語ったのは、「⽇光を⾒ずして、結構と⾔うなかれ」という栃⽊への思いあふれる⾔葉です。インバウンド観光をはじめ様々な注⽬が⽇本に集まる中、⽇本や栃⽊に縁のある登壇者の⽅々を迎え、海外の投資家⽬線による⽇光のグローバルな未来価値を探ります。

ラグジュアリーホテルにおいて、⽇本は⼀番のフォーカスエリア

ホテルマンとしてマリオット並びにヒルトンで20年以上のキャリアを持ち、現在はマリオット・インターナショナル⽇本・グアム地区副社⻑を務めるカール・ハドソン⽒は、ザ・リッツ・カールトン⽇光のオープニングチームのメンバーでもありました。マリオットでは⽇本において過去10年間に70以上ものホテルがオープンし、2023年春にはザ・リッツ・カールトン福岡や、⽇本初となる「ブルガリホテル東京」をオープンする計画が進⾏、ラグジュアリーホテルにおける⽬覚ましい成⻑があります。しかしながら「オーストラリア、中国、ヨーロッパ、アメリカと⽐較しても⽇本はラグジュアリーホテルの存在感がまだまだ⾜りません。だからこそ⽇本は伸びしろのあるエリアです」とカール⽒。
同じく⽇本におけるホテル開業、不動産投資マーケットへの関⼼の⾼さに注⽬しているのはロックプール・キャピタルのマネージングディレクターであるコリー・ハマバタ⽒。コリー⽒はホテル経営学で全⽶最⾼峰とも⾔われるコーネル⼤学の出⾝で、JLL ホテルに10年以上勤務後、ロックプール・キャピタルにてホスピタリティの投資部⾨で活躍されています。⽗親が⽇本⼈というコリー⽒は「かつて旅⼈として訪れたことのある⽇光の投資についてお話できることを楽しみにしています。⽇本はホテルの市場規模の点からもアジアで常にアクテ ィブなマーケットです。さらに東京、⼤阪、京都のような⼤都市のみならず地⽅においてもチャンスがあると考えています。また、既存施設をリノベーションしてホテルとしてビジネスを⾏う形はスピードとして⼀番早く収益リターンを上げる効果的な⽅法です」と語ります。

⾼付加価値なインバウンド観光へ。⽇光が持つポテンシャル

観光庁が⽰している「地⽅における⾼付加価値なインバウンド観光地域に向けたアクションプラン」では、⾼付加価値旅⾏者、いわゆる富裕層の外国⼈観光客の定義を「1回の旅⾏につき、旅⾏先での観光消費額100万円以上」としています。現在インバウンド観光客の1%が該当し、消費⾦額は全体の11%を占めています。こうした富裕層誘致における⽇光のポテンシャルについても議論を交わしました。
今回のディスカッションの会場となった「ザ・リッツ・カールトン⽇光」総⽀配⼈のアレクサンダー・ウエストウッド・マクブライド⽒は「⽇光には素晴らしい⾃然、⽂化、歴史的建造物があります。ホテルとしても有名シェフとコラボレーションした料理や、ウェルネス、ファミリー向けアクティビティなど様々な体験を提供しコンテンツを強化していきます」と語ります。世界各国でのラグジュアリーホテルの経験豊富なアレクサンダー⽒は南アフリカ出⾝で「エコール・オテリエール」ローザンヌ⼤学でホスピタリティを学んだプロフェッショナル。奥様が⽇本の徳島出⾝ということで様々な視点から⽇本⽂化に触れるとともに、ザ・リッツ・カールトン京都から⽇光へ来てフレッシュな感性で⽇光を⾒つめることで、地域とホテルの共創を⼤切にされています。

投資がもたらす未来の可能性。地域のコミュニティと共に歩む⼤切さ

⽇本、そして⽇光に富裕層が満⾜できるラグジュアリーホテルが圧倒的に不⾜している現実。グローバルな成功事例はいずれもホテル開発における地域のインフラへの投資や、認知度を⾼めるための広告を含め⼤々的な投資が⾏われています。その際に重要なのは地域のコミュニティの⼈々と⾜並みを揃え、共に歩んでいくことであると登壇者の皆さんからお話いただきました。また、ホテル開発における地域社会への良い影響として地元での「雇⽤の創出」も上げられました。

ウリ・ヤド・ヒト・コネ。これからの⽇光の課題とは?

ある統計では、2回⽬にレジャー・トラベルに来る⼈の40%は郊外へ⾏きたいと考えています。「ウリ」となる魅⼒にあふれた⽇光ですが、⾞がないと⾏きにくいエリアも多く、バスもありますが頻度が少ない、レンタルバイクなど⼿段は増えているものの交通⼿段が限られることで要望を満たせないことが⽣じ、⾼付加価値旅⾏者に訴求していくコーディネーション⼒に⽋けてしまいます。「ヤド」については、富裕層からは「ザ・リッツ・カールトン⽇光しかない」という厳しい声も。さらに「ヒト」の⾯でも、上質なホテルを運営していくホスピタリティのある⼈材不⾜は深刻です。そして最も重要となる「コネ」、海外富裕層への⼈脈につなげるコネクションも不⾜しています。

マイスビジネスによる発展。⽇光の天然氷のカクテルのように魅⼒をミキシング

⽇光市に隣接する宇都宮市にはコンベンションセンターが開設され、マイスビジネスの獲得にも期待が⾼まります。ボードミーティングや⼩規模なマイスビジネスによって平⽇のホテルニーズを埋め、⽇光の社寺と特別な体験を組み合わせるなど地域の特性を⽣かした⼯夫が求められます。「インベストメント⽇光」登壇者の⽅々が⼝を揃えて語っていたのは「⽇光そのものが変わる必要はなく、コンセプトの強化と積み上げ、⽇光ブランドの確⽴と推進のためにマーケティングの役割が重要」ということ。アップサイクルTOCHIGI の取り組みとしても、⽇光のキーマンの⽅々、国内外の様々なプロフェッショナルの皆様と共に未来価値をミキシングしていくことで次へのヒントにしていきたいと思います。